自然写真家 佐藤大史 極夜プロジェクト インタビュー(前編)
2025.02.20 読みもの
地球を感じてもらいたい、そして日本だけの常識や固定観念を覆してほしい。
自然写真家の佐藤大史さんがアラスカ北極圏での48時間タイムラプス撮影「極夜プロジェクト」に挑戦したのはそんな思いからはじまりました。

「夜になると太陽が沈み、星が出る。そしてまた朝になると太陽が出る。これが普通のことなんですが、緯度が高い冬のアラスカでは4時間くらい薄ぼんやり明るくなるだけで太陽は昇りません。これが極夜。一日中明るい白夜の反対です。
太陽と地球があることで昼の場所と夜の場所があるわけですが、アラスカの冬は地球の影側にずっと入っているんです。
通常、オーロラを見られるのは夜の時間帯なのですが、極夜のアラスカでは朝9時でも暗く、早朝や夕方にオーロラが見えることもある。これは同じアラスカでも9月には絶対起きえません。
“夜はこういうものである”という常識を、改めて書き換えられた気がしました」

「白夜と極夜。これは人間が付けた名前で、地球からするとただのルーティーンでしかありません。
けれども人間にとって、24時間太陽が出ていることと、24時間ほとんど太陽が出ないのは大きな違いと言えるでしょう。
キャビンフィーバー(長期間閉じ込められることによって生じる発熱やストレス)という言葉があるのですが、極夜で毎日が暗いと暗い気持ちになり、暗い冬の時期を乗り切れずにアラスカを出て行く人が多いそう。
おそらく人間が冬眠できるのならば半数以上がそれを選択するのでは。と思えるほど冬のアラスカは寒く、暗いんです。
僕たちは数週間でアラスカを出るビジターですが、暗さが人にどれだけ影響を与えるのかということを実感しました。
そして地図上のちょっと右上にいくだけでそんな経験ができるってスゴイと思いませんか」
初アラスカで自然の厳しさに打ちのめされる
そもそも佐藤さんが自然写真家を目指したのは写真を学んでいた大学時代。
「当時はフィルムで、暗室にこもって作業する日々だったからでしょうか、大手出版社のバイトで芸能人に会うこともおしゃれな店に行くこともありましたが、きらびやかなのに心に響かない。
美しい風景や生き物のほうが響くな…とわかってきたのがその頃です。高校時代に星野道夫さんの本に感銘を受けていたこともあり、意識していたわけではないけれどすごく影響を受けたと思います」

▲佐藤大史
1985年生まれ。写真家白川義員の助手を務め、2013年独立。「地球を感じてもらう」ことをコンセプトに、主にアラスカなどの手つかずの大自然を撮影。
日本大学芸術学部写真学科卒業。
通称、日藝は写真、映画、デザイン、演劇など幅広い分野で活躍する一流クリエイターを数多く排出している名門です。
学生時代から表現者たちに囲まれ、揉まれているわけですがそれでも自然写真家一本で生活するのは大変。
写真家・白川義員さんのアシスタントや北アルプスでの山小屋の仕事などを経験したと振り返ります。
では、なぜアラスカを目指したのはなぜでしょうか。
「写真を撮るなら本気で。そしてできるだけ大きな被写体と向き合いたいと思ったんです。
南極やグリーンランドなどと迷いましたが、アラスカは10年、20年と通い続けられる場所として、アラスカの地を選びました。独立前の2011年2月、下見と称して初めて冬のアラスカを訪れました」
今までの経験値で通じるのか試そうと思い、意気揚々とアラスカに足を踏み入れるも結果は完敗だったとか。
「当時持っていた装備ではアラスカの寒さに対応できず、体温がどんどん周囲に奪われていく一方。日本の雪山とは全然違いました。
アラスカの冬は-20℃くらいで-35℃になることもあります。
北海道の道北内陸部もそれくらいの気温ですが、さらに湿度が低くて乾燥しているんです。このときは”寝たら死ぬ”と感じて、体育座りをして朝を待つしかなかったですね」

機材の準備も万全ではなく、動かなくなることもあったそうです。
けれども初回の手痛い経験があったからこそ、アラスカと向き合うための装備、覚悟がきまります。
「2015年から年2回訪れるようになり、1年のうち3〜4カ月アラスカに滞在しています。アラスカはすごく大きくて、人の手がはいっていない部分がいっぱい。道路がないので自分で道を選びながら森の中を入っていくわけで、基本的に単独なので、自分で進む場所を決められる。そういうところもおもしろいです」
カメラは万全、寒さ対策も申し分なし! けれど…
乾燥していると皮膚表面のわずかな汗が次々蒸発し、その際に熱が奪われます。
気温の低さだけでなく極度の乾燥が敗因。

「今回のプロジェクトに点数をつけるとするなら、100点満点中70点です」


「僕は寒さに強いと評価が高いOMシステムのカメラを使っていて、今回もカメラ自体に問題は全くありませんでした。
バッテリーも通常使える時間の半分で計算していて、ほぼ計算通り。
ところが地球の動きにあわせてカメラを回転させながら撮影する予定だったのですが、回転させるコントローラーの不具合でカメラを1方向に固定して撮影することになったんです。
不具合の原因は風と寒さでした。
カメラをセットしてケーブルでつなぎ、僕たちはテントの中で待機して大体2時間おきに確認しに行くんですがその間、ケーブルは風に当たりっぱなし。ケーブルが寒さで縮んで破断しているんです。ケーブルが切れてなくても給電ができない状態になっているとか。僕も初めての経験です」
地球の動きにあわせてカメラを2周させながらのタイムラプス…という当初の目的は果たせなかったが、撮影自体は成功したし、全員ケガをすることもなく帰国の途についた。
ケーブルの対策という宿題はあるが、このプロジェクトで改めて太陽の光のありがたみを感じたとも言います。

「午前10時くらいに、日の出直前の”空が赤くなって日が出るかでないか”という状態が4時間ほど続きます。あとはずっと暗いまま。
明るい時間を無駄にできないので、この時間を軸にスケジュールをたてました。そして時間の感覚がないので適宜時計を見るしかありません。

冬のアラスカはラッセルするような場所もありますが、風が強いので雪がたっぷり降り積もる間もなく飛ばされてしまいます。だからカメラのチェックをして待機用テントに戻る前に足跡が消えることも。
テントまでの距離はそれほど離れていないので危険はありませんが、光が消えていると、朝でもどこに進めばいいのかわからなくなるんです。あらためて太陽の光はありがたいなと思いました」
日本ではアウトドア人気の高まりとともに雪中キャンプを楽しむ人が増えました。太陽が昇るとテントの中が少しだけあたたかくなって身体がゆるむ、そんな経験をした人も多いでしょう。
「気温は平均して−20℃を推移し、寒い時は-30℃くらい。残念ながら極夜では太陽のぬくもりを感じるほどではありませんが、そういう環境が続くと、-10℃になると素手でカメラに触れて操作する時間が伸び、恐怖心が薄らぐのがわかります。
気温を計っているわけではないけれども身体が感じるのがおもしろいですよね」

「僕は常々、地球や命を感じて欲しいと言っているのですが、日々の暮らしの中で地球や命を感じられないわけではありません。ただ忙しくて気づかないだけ。
アラスカに行かなくても、たとえば自宅の近くでも同じ場所に毎日立って日の出を待つだけでも地球を感じることができておもしろいと思います。
長いものさしで地球を見ると救いになる、力になると信じています」
クラウドファンディング
極夜アラスカで地球2周分のタイムラプスを撮り、地球をあらためて感じてもらいたい!
クラウドファンディング限定のシリアルナンバーを入れたサイン入り作品集「北の光景」100部限定 Limited editionなどリターン多数。
プロジェクトメンバーのインスタグラムアカウント
写真家 佐藤大史 Instagram
動画・編集:石川貴大 Instagram
山と旅のイラストレーター やまとけいこ Instagram
【光のない世界を撮る】アラスカ極夜撮影プロジェクト
YouTube 山と溪谷ch.にて公開中。プランBの後のDエリアまでのドキュメンタリー
全編は2025年春頃にて公開予定
佐藤大史氏のInstagramでアナウンスされます。
緊急告知佐藤氏の活動のご案内
カメラと写真映像のワールドプレミアショーCP+2025にて下記のブランドプログラムにGuest Speakerとして登壇されます。ぜひお見逃しなく。
2月26日(水)
OM SYSTEM ブースにてオンライン登壇
https://jp.omsystem.com/event/cpplus2025/
2月28日(金)15:30〜
VidendumブースにてGuest Speakerとして登壇
https://www.manfrotto.com/jp-ja/cp-plus-2025/
詳しくは各ブースごとの情報をご確認ください。